“本物のセル画”に挑む。小出卓史監督が語るTVアニメ『さよならララ』OPアナログパート制作の舞台裏

2026年7月より放送・配信中のTVアニメ『さよならララ』。キネマシトラス15周年記念作品として制作されたオリジナル作品です。そのオープニング映像には、実際にセル画を描いた5カットが使われています。公式Xでの紹介をきっかけに、この“フィルムフロー”は大きな話題を呼びました。
IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下、Imagica EMS)は、この5カットのネガ現像、4Kスキャン、カラーグレーディング、オンライン編集を担当。映画用フィルムの現像が国内で唯一可能な大阪の拠点を擁する同社にとっても、アニメーションのフィルム撮影案件は10年以上ぶりのことでした。
デジタルで“フィルム風”の質感を後乗せできる現在、なぜ物理的なフィルムに焼き付けたのか。監督の小出卓史氏と、Imagica EMSのスタッフ3名に制作舞台裏を聞きました。
取材・文_NUMAKURA Arihito
撮影_森﨑⼀寿美
対談者
株式会社キネマシトラス
監督:小出卓史氏
株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス
タイミング:高橋守朗
カラリスト:関口正人
コーディネーター:鈴木基子
🧜♀️⁺‧┈ 『さよならララ』 オープニング映像公開 🎵OPテーマ いきものかがり「さよならララ」 ┈‧⁺ 🫧˚ 一部セル画のカットを使用し、手書きクレジットを載せた、柔らかくも優しい本映像を、ぜひご覧ください。
#さよならララ #いきものがかり— TVアニメ『さよならララ』公式✨2026年7月より放送・配信中! (@Goodbye_Lara) July 12, 2026
「昔のセルアニメって、まだ作れるのかな?」ひとつのアイデアから始まったフィルムへの挑戦
——まずは自己紹介を兼ねて、今回のOP制作での役回りを教えてください。
小出:
キネマシトラスの小出卓史です。『さよならララ』の監督を務めており、本作が初監督作品になります。
高橋:
本OPアナログパートのタイミングを担当した高橋守朗です。今回はスキャンも私自身が担当しているので、ネガをお預かりしてからプリント、4Kスキャンまで一貫してコントロールしています。
関口:
カラリストの関口正人です。スキャンされた素材のカラーグレーディングを担当しました。
鈴木:
コーディネーターの鈴木基子です。フィルムの調達から工程の設計、オンライン編集への素材の受け渡しまでを担当しました。
——OP映像の一部をアナログで作ろうというアイデアは、いつ、どのように生まれたのでしょうか。
小出:
実はオープニングは、本編の制作がかなり進んだタイミングで作り始めました。どんなオープニングにしようかとずっと悩んでいて……OPとしての存在感をもたせたい、この作品ならではの表現とは何か。そんなことを考えていくなかで、「そういえば、昔のセルアニメって、まだ作れるのかな?」と思ったんです。
そこでクリエイティブプロデューサーの森山(菜月)や周りのスタッフに聞いてみると、みんな頭の中に「できるのかな?」とハテナを浮かべていましたが(笑)、意外にも「チャンスがあるなら、ぜひやりたい」という声が多かった。自分ひとりの「やりたい」だけだったら、実現できなかったと思います。

——作品全体のルックも、現在のアニメではあまり見ないものです。線が太く、彩度の高い画も、セル画という発想と地続きだったのでしょうか?
小出:
いいえ、画に関してはもう少し現場論的でして。最近のアニメ、特に2010年頃の作品からは、どんどん線が細く、色が薄くなっていきました。『さよならララ』はキネマシトラスの15周年企画として制作しているオリジナル作品ですから、そうしたトレンドとは一線を画したかったんです。
ストーリーにマッチしたルックとして、「線が太くて色が濃い、こういうアニメもありますよ」という志で取り組み始めました。そこに熱中していけばいくほど、観てくださった方から「少し懐かしい感じがするね」と言っていただけるような、『さよならララ』ならではのテイストになっていったのだと思います。
——Imagica EMSへの相談は、いつ頃だったのでしょうか。
鈴木:
2025年の年末ぐらいでした。V編など本編のポストプロダクション業務も担当させていただいているので、そのやり取りの中で、森山さんと小出監督から「OP用のカットをセルから作りたいんですけど、どういう工程が必要ですか?」とご相談いただいたことを覚えています。それからしばらく間が空いて、今年の3月ぐらいに「やります!」と。
先に本編を拝見していたので、70年代、80年代の邦画のようなレトロな方向にされたいのかなと勝手に思い、「35mmよりも16mmを希望されますか?」「コントラストをつけたほうが独自性を出せるかもしれません」などとご提案していました。でも、それは私の思い込みでした(苦笑)。
細部までこだわりたいということでしたので、実際にフィルムテストを行い、イメージに合うものを選んでいただくのが一番良いだろう、と考えました。

——完成したOPは、フィルムとデジタルのカットの一体感が見事で、正直、教えていただくまでどのカットがフィルムフローで作られたのかわかりませんでした。
関口:
グレーディングの最中も、フィルムの画の横にデジタルの画を置いて見比べていました。「離れすぎないように」というのは、監督がかなり意識されていましたね。
小出:
飛び道具にはしたくなかったんです。「フィルムでやりました」というのが前面に出ないように、この作品の世界観に合ったルックにこだわりました。

フィルムフローでは、事前テストが必須
——本番の前に、テスト撮影を2回行われたそうですね。
高橋:
アナログパートの撮影を担当されたスタジオトゥインクルさんから、撮影台のカメラを回すのはかなり久しぶりだと伺っていました。テスト撮影をせずに本番へ入ると、何らかの機材トラブルが起きるリスクが高いので、「まずはテスト撮影をやりませんか?」とお願いしました。

小出:
これは本当に、正しい判断でした。実際にテストで撮ってみたところ、昔と同じ露出ではフィルムの感度が良すぎて、明るく飛びすぎてしまったんです。
鈴木:
現像した高橋から「露出がめちゃくちゃオーバーしていてプリントが焼けない」と連絡が来ました。後から分かったことなのですが、当時のアニメの現場では感度100のフィルムで撮るのが通常だったようです。
今回は感度100のフィルムはすでに生産終了していたため、感度200のフィルムを使っていたのですが、昔と同じ露出のまま撮影したことで、オーバーになってしまいました。昔と今とでは、同じ手法でも思わぬところに変わっている要素があるのだと、良い勉強になりました。

小出:
2回目のテストでようやく適正な光量で撮ることができたので、そこから一番適切な露出を選んで本番に臨みました。本当は1回で終わらせたかったんですけどね(笑)。
一連の露出テストの映像は、後に続く方の役に立つかもしれないと思って、『さよならララ』Blu-ray&DVD BOX 上巻の特典にそのまま収録しています。

——鈴木さんのお仕事的には、フィルムを確保するところからのスタートだったわけですか?
鈴木:
そうですね。まずはコダックさんに在庫を確認しました。在庫が少ない状態でしたが、尺が短いので400フィート1巻ならすぐ手配できると。それと並行して、キネマシトラスさんとスタジオトゥインクルさんと打合せを進めるなど準備をしていきました。制作部さんと撮影部さんは、アナログ撮影が行える方を探したり、アナログの撮影台のセッティングを行ったりなど、準備がとても大変なご様子でした。
また、ラボにフィルムを入稿する際は「缶票」にフィルムの情報を書き込む必要があります。実写では今も日常的に行われていることですが、アニメの現場では10年以上ぶりのこと。書き慣れない中で無理を承知でお願いし、現像方法やフィート数、フィルムタイプを記入していただきました。

鈴木:
さらにフィルムの現像は、Imagica EMSの大阪プロダクションセンターでしか行えません。
そのため、撮影会社さんのある西東京から当社の品川プロダクションセンターにあるラボ受付までフィルムを持ち込んでいただく「ラボ入れ」を3回にわたってキネマシトラスさんにお願いすることになりました。すると、なんと『さよならララ』シニアプロデューサーの小笠原宗紀さんが、自ら足を運んで対応してくださいました。
——アナログ時代を身をもって知る方の存在は大きいですね。さて、フィルムテストでは3種類のフィルムを試されたと伺いました。
関口:
ネガと、ノーマルのポジ、そしてイマトンポジの3種類を見ていただきました。ノーマルのポジは少しコントラストが強すぎかなということでテスト段階でなしとなり、本番ではイマトンとネガの2系統で撮っています。

小出:
キャラクターが写っているカットは、ネガを採用しました。実写ではなくアニメだからこそ、セルの実物という感じがしっかり出たほうがいい。そう思うと、ネガが一番素敵に見えたんです。
関口:
情報量も、触れる幅も、一番ネガにあります。カラコレで触る前提であれば、やはりネガが一番良かったのかなと思いますね。
——「イマトンポジ」は、どのようなニーズから生まれたものですか?
高橋:
もともとコダックが販売していたテレシネ用の「ローコンポジ」という低コントラストのフィルムがあったのですが、ある時に廃番になってしまって。それに近いものを当社で開発しようと、元のフィルムに対してコントラストを下げる処理をして仕上げているのが、イマトン(IMAGICAトーン)と言われるポジです。
ネガだと生っぽい、高精細すぎるという声もあります。かといって普通のポジにすると、今度はコントラストが強すぎてしまう。そうした両者の中間的な選択肢として、ポジフィルムならではの質感を生かしつつ扱いやすい階調に整えられるため、CMやMVといった映像作品などで重宝されています。
鈴木:
今回は最初からグレーディングに入る前提でしたから、イマトンポジでも絶対に焼いておいたほうが良いと思いました。味も出しつつ、グレーディングに耐える情報も載せられるだろうと。



——フィルムスキャンは4Kで行われたそうですね。2Kとの違いは、どういった部分に表れるのでしょうか?
高橋:
4Kスキャンでは、6マイクロメートルというフィルム上のごくわずかな幅を、1ピクセルとして読み取ります。2Kは12マイクロメートル、ちょうど2倍です。拡大して見てもらえば、明らかにわかるくらい画質が違います。
35mmの4パーフォレーション(4-perf)の素材をそのままデータ化するには4Kの精度がないと難しい、とは昔から言われてきたことでもあります。フィルムの情報を「ないところがない」というくらい取っておくことには、後世に残すという意味でも意義がありますね。
本編では、1話に1カット。フィルムの“カタつき”が込められていた!
——関口さんは、テストの段階からグレーディングを担当されたそうですね。
関口:
テストでは1カットずつ違う設定で撮られていたので、どの設定が一番、シャープネスやフィルムらしい質感をしっかり出せるかを、高橋と連絡を取り合いながら確認しました。ここでずれると本番が大変になりますから、かなり気を使いましたね。テストの段階で小出監督とある程度の画づくりをさせていただき、それを本番の撮影に反映させたことで、その後の作業はスムーズに進めることができました。
フィルム独特の魅力として印象的だったのは、例えば背景のブルーです。デジタルではのっぺりとした青一色になりがちなところが、フィルムだとちょっとした濃淡の違いが出てくるんです。色の出方も、エッジの雰囲気も違いますね。


——フィルムフローの5カットのうち、1カットだけコンポジット工程を通しているそうですね。
小出:
OPの1分7秒あたり、レンズフレアの入るカットです。透過光が少しぼやけて見えるのがベストだったので、ここはイマトンのほうがよく見えました。アナログの撮影台ではできなかったTU/TBについても、このカットだけはAfter Effects上でカメラワークとして加えています。

——ところで、鈴木さんは今回の対談でぜひ監督とお話したいトピックがあるんですよね?
鈴木:
フィルムを映写するとき、カウントリーダーから本編に切り替わるタイミングで生じる“カタつき”。小出監督は、これをご存じだったんです。
グレーディングルームでそのお話を聞いて「そんなところまで把握されているとは」と驚いたのですが、私自身は、なぜそうなるのか理由を知らずにいました。先ほど高橋に教えてもらって、ようやく腑に落ちたところです。
高橋:
フィルムの頭にはカウントリーダーがあって、そこからネガに切り替わる箇所は必ず揺れます。原因はパーフォレーション(フィルムの送り穴)の形の違いなんですよ。リーダー側は四角い形で、ネガ側は少し縁が丸い。形の違うものが繋がっているので、プリンターを通るときにどうしても揺れが生じてしまうんです。
昔からそうなっているので、なぜ異なるパーフォレーション形状のものを繋いでいるのか、確かなことは私にもわかりませんが……。ところで小出監督は、本編のカットにもこのカタつき処理を加えていますよね?
小出:
おお、気づいてもらえるとは! 実は、1話数に1カットだけ、カタつき処理を入れているんですよ。
——全話に、ですか!?
小出:
各話数の演出さんにお願いして、「好きなカットを1つ決めてください、そこを揺らすので」と。メインスタッフでも知らない人がいます。プロデューサーからも「なんで? なんでそんなことをやるの?」と言われました(笑)。
昔の邦画でも洋画でも、フィルムがかかるときの拍子にちょっと揺れる、あの感じに味わいがあっていいなと思っていたので、今回それを入れようと。今日は、カタつきの原理まで聞けてよかったです。
高橋:
僕は第7話『土曜の10時、びわ湖テラスで』を観ていて気づきました。ララ(CV:菱川花菜)たちがびわ湖バレイのロープウェイで上がっていくシーンで、急にガクッとなって。「これは意図的なものなのか、言っていいものかどうか……」と気になっていたので、今、思いきって口にしました(笑)。
——ほかにも、フィルムならではの“ままならなさ”はありましたか。
高橋:
「セルパカ」も、今はご存じない方が多いでしょうね。セルの枚数で透過する光量が変わるので、1枚足すのを忘れるとパカッと明るさが変わってしまうんです。昔はよく、その手直しを拝見していました。
小出:
ここで言うのはよくないかもしれませんが(笑)、実はフィルムで撮ったカットにも少しパカが気になるところがあって、後から画像を切り貼りして、ちょっとだけデジタルで調整してしまったコマがあります。
そのまま撮ったものを出すのが目的だったのに、手を加えてしまった……自分の心の弱さかもしれません(笑)。
——(笑)。「飛び道具にはしたくなかった」とおっしゃっていたので、その意図がわかる気がします。ちなみに小出監督ご自身として、OPで特に思い入れのあるカットはどこでしょう?
小出:
サビ前の、大津茉里(CV:川石奈奈)がカメラに向かって振り向くカットでしょうか。こちらはフィルムフローのカットで、続く次のカットは、画面奥から飛び込んでくるララのアップ。こちらは通常のデジタルフローです。
フィルムで描かれたキャラクターと、デジタルで描かれたキャラクターの目が合う。この作品は人魚と人間の存在の境界が主題のひとつにありますから、これは絶対にやらなくてはと思って入れた演出です。2つのカットのわずかな質感の差を、楽しんでもらえたら嬉しいですね。

フィルムには独自の魅力がある。フィルムフローを絶やさないために
——放送開始後のOPへの反響はいかがですか?
小出:
自分が思っていたよりも、セルアニメみたいなものに興味がある人は多かったんだな、と。ここまでの広がり方は予想していなかったので、チャレンジした甲斐がありました。
——これから挑戦したいという人に、アドバイスをお願いします。
小出:
「思ったよりも時間がかかりますよ」。これに尽きます(笑)。
今回のアナログパートだけでも最低3ヶ月は必要でしたし、長い目で見るなら半年ぐらいは余裕を持ったほうがいいと思います。デジタルのアンドゥ/リドゥのようにはいきませんから。
今回は5カットを合計しても5秒あるかないかでしたが、なんとか実現できました。この経験を活かして、チャンスがあれば次回はもっと長尺で挑戦できるかもしれません。

——デジタルのフィルタ処理では得られない、フィルムならではの質感とは何だと思いますか?
小出:
複合的な要素だと思っていて。セルを入れ替えると、ほんのわずかなズレが絶対に生じるんですよね。セルの穴の歪みかもしれませんし、そうした自然なブレも出る。寄ってみると、細かい粒子感もある。
ひとつひとつはデジタルでも再現できるかもしれませんが、いくつもの要素が複合的に「セルらしさ」を出しているんだと思います。これをデジタルであえて同じようにやるほうが、逆に大変かもしれません。
高橋:
フィルムには、そもそも発色の“クセ”がありますからね。均一ではないんです。それに、これは絵の具で塗っているものですから。フィルムである以前に、紙や筆のテクスチャーがあるとも言えます。
関口:
フィルムに触れる機会は減っています。昔はテレシネの現場で毎日フィルムをかけていましたが、その経験を積む機会が、今はなかなかありません。僕はセルの画で育った人間なので、すごく自然に受け入れられるんですけれどね……。
高橋:
当社もフィルムスキャナなどの機材を大阪の拠点に集約しました。ただ、フィルムフローに対応する体制は整っていますので、いつでもご依頼いただけます。私も現場で次のフィルム案件が来るのをお待ちしています(笑)。
鈴木:
やめてしまうと、本当になくなってしまう技術です。フィルムに触れる人がいなくなれば、リマスターもできなくなってしまう……。今回は国内唯一のフィルム現像所として「フィルム、まだがんばってますよ」とアピールできたので、すごくありがたいです。制作関係者のみなさま向けに、大阪プロダクションセンターの見学会やご相談も承っていますので、フィルムを使った表現をご検討の際は、ぜひお声がけください。
小出:
今回、「セルって、良いものだな」と実感しました。途絶えさせるにはもったいない技術なので、みなさんもぜひチャレンジしてみてください。

TVアニメ『さよならララ』

【キャスト】
ララ:菱川花菜、大津茉里:川石奈奈、グレイス:深見梨加、ルカ:村瀬 歩、大津祥弥:大野智敬、大津 誠:真殿光昭、大津江万:住友七絵、ローワン:てらそままさき、リサ:津田美波、コータ:山本和臣
【スタッフ】
原作:キネマシトラス
監督:小出卓史
シリーズ構成:川原杏奈
キャラクターデザイン:谷 紫織
美術監督:藤野真里(スタジオ Pablo)
色彩設計:相澤里佳
撮影監督:出水田和人(T2 studio)
編集:黒澤雅之
グラフィックデザイン:濱 祐斗・山口真生
深海イメージ:MON
ウォーターアーティスト:吉邉尚希
音響監督:山田 陽
音楽:yuma yamaguchi
音楽制作:KADOKAWA
シニアプロデューサー:小笠原宗紀
チームプロデューサー:石川祥気
クリエイティブプロデューサー:森山菜月
原作・アニメーション制作:キネマシトラス
製作:「さよならララ」製作委員会

