「3km先の理想を、確信に変える」——撮影監督 山本英夫氏が語る、ルック開発の新たな出発点「Lucerion」

撮影監督 山本英夫氏、当社401グレーディングルームにて

デジタル撮影が主流となり、表現の自由が広がった現代。しかし制作現場では、理想のルックを追求するための「時間」という制約に誰もが直面しています。

「限られた時間の中で、もっと別の可能性があるのではないかと葛藤してきた」と語るのは、日本映画界を代表する撮影監督 山本英夫氏。数々の名作を手掛けてきた氏に、IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下、Imagica EMS)が提案する新しいグレーディング・プラットフォーム「Lucerion(ルシリオン)」が、制作現場の課題をどう解決し、表現をどう変えていくのか。撮影監督のリアルな言葉で語っていただきました。

山本 英夫 氏

映画カメラマン / Cinematographer / 日本映画撮影監督協会員(J S C)近年作品『スオミの話をしよう』『まる』『90歳何がめでたい』『沈黙のパレード』『そしてバトンは渡された』『LOVE LIFE』他
最新作『花まんま』『でっちあげ』『おい、太宰』(wowow)『ラストマン』
Instagram:@bilikenhide

理想のルックを追求する中で、抱いていた葛藤

―― 山本さんは、デジタル時代のルック開発において、プロフェッショナルゆえの葛藤を抱えていると伺いました

山本 そうですね。今の映画制作は、とにかく時間が足りないんです。まずカメラテストをして、その素材を持ってこのグレーディングルームに入る。真っ暗な部屋に入った瞬間、毎回考えるんです。「限られたこの1日で、どこまで追い込めるか」と。

―― それは、頭の中にある緻密なイメージを具象化する時間が足りない、ということでしょうか

山本: もちろん、テストグレーディングの1日でベストな着地点は見つけ出します。しかし、カラリストとスクリーンに向き合い、色の可能性を探っていく作業には、本来もっと時間が必要です。本当は4日間くらいかけていろいろと検証したい。けれども現実は1日。その中で最適解を出して現場に向かいますが、心のどこかでは「もしあと数日あれば、もっと別の可能性も見つけられたのではないか」という思いが常にあります。仕上げのグレーディング時間も決して潤沢なわけではありません。だからこそ、撮影前の段階で、もっと作品の核となるルックを盤石なものにしておきたい。そういった「理想へのあくなき渇望」のようなものが、常に自分の中にあります。

―― そのような中で「Lucerion」の説明を初めて聞いた時に、どのように感じられましたか

山本: 直感的に思ったのは、「アプローチの出発点が根本的に違う」ということです。普段のグレーディングと違い、「Lucerion」のアプローチは、いわば「独自のネガを選ぶ」ような感覚で色の方向性を決められます。そのため、作品が目指す到達点により近いところから出発できると感じました。

―― 「独自のネガを選ぶ」という感覚を、もう少し詳しく教えてください

山本: フィルム時代はネガのタイプを選ぶ時点で、ある程度の方向性が決まっていました。それがクリエイティブの「フック(取っ掛かり)」になっていたんです。デジタルになって何でもできるようになった分、逆にイメージを具象化する道筋が見えにくくなった。「Lucerion」は、デジタルの中にその「リアルな拠り所」を作ってくれる。これがあれば、ルックの精度を格段に上げられるし、より作品に沿ったイメージを目に見える形にできる。そこに大きなポテンシャルを感じました。

フィルムの露光から現像までの物理プロセスと、「Lucerion」がデジタル上でそれを再構築する概念図

「ライブラリ」と「ルックバリエーション」がクリエイティビティを加速させる

―― 山本さんには、「ライブラリ」の撮影・制作にも深く関わっていただきました

山本:最初に「Lucerion」の説明を受けた際に、「バリエーション豊かなライブラリが揃っていなければ、このシステムのポテンシャルを活かしきることはできない」とお伝えしました。

――かなりストレートに伝えられたのですね

山本:どんなに「Lucerion」が優れていても、そこから多様な世界観を想像できるライブラリがなければ、その良さは伝わりません。ですから、日常的なシーンをホラーにも、サスペンスにも、ラブストーリーにも変えられるような、バリエーション豊かなライブラリを揃えてほしいとリクエストしました。今回それが実現したことで、このライブラリがあってこそ、「Lucerion」が本当に活きると改めて確信しました。

―― ライブラリがあることで、具体的にどう運用が変わりそうでしょうか

山本: 例えばカメラテストの前に、グレーディングルームに来て2時間ぐらいカラリストと一緒にライブラリを見る。「今回はこういうイメージだから、それだったらどういうアプローチがあるか」と、何十種類もある「Lucerion」のルックバリエーションを試しながらディスカッションするんです。そこでカメラマンの中にアイデアが湧いてくる。それだけで、その後のカメラテストや本編撮影の精度が一気に跳ね上がって、3km先にあった理想のビジョンが、瞬く間に50m先まで近づいてくるはずです。

「Lucerion」で提案するワークフロー

綺麗に撮れるデジタルを、なぜ私たちは「汚す」のか

―― デジタルカメラの性能が向上してもなお、表現力に物足りなさを感じることはありますか

山本: 性能は上がっていますが、それは「デジタル」の中での話です。6Kや8Kで綺麗に撮った映像を、わざわざ「汚して」いることがありますが、それは綺麗すぎるものにどこか生理的な違和感を感じているからだと思います。均一化された映像に自分なりの世界観、たとえば「フィルムルック」のような厚みを盛り込みたいと多くの人が試行錯誤しています。

―― その試行錯誤の答えが、「Lucerion」にあるということでしょうか

山本: 「Lucerion」を使って、デジタル上で独自のネガを選ぶ。これは魅力的だし、今の時代に求められていることだと思います。もしフィルムからデジタルに乗り換える時期にこのシステムがあったら、もっと納得して、スムーズに乗り換えていたかも知れません。

カラリストとの「余白」を共有する楽しみ

―― カラリストとの関係性も変わりそうでしょうか

山本: それは大事なポイントです。「Lucerion」は凄いシステムですが、すべてをそこで作り込むことが正解ではありません。たとえば「Lucerion」で7割の世界観を構築しつつ、あとの3割をグレーディングルームで追い込むための「余白」として残しておく。そのバランスをカメラマンとカラリストが事前に話し合えるようになる。これこそが理想で、新しいクリエイティブプロセスです。

―― 最後に、このインタビューを読んでいる若いクリエイターやプロデューサーにメッセージをお願いします

山本: 「Lucerion」は科学的根拠に基づいたシステムなので、言葉で説明すればするほど「サイエンス」の話になりがちですが、制作者にとって一番大事なことは「実際にどう見えるか」です。まずは実際にその映像を見てほしい。これまで限られた時間の中で抱えてきた「もっと別の可能性があるのではないか」という葛藤が、「Lucerion」を使えば「このルックが正解だ」という確信に変わる。撮影前の段階でルックを盤石にできれば、 今まで到達できなかった地点が見えてくるはずですから。

山本氏と当社カラリストの倉森

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「Lucerion(ルシリオン)- The Look Baseline Platform -」は、映像制作におけるルック開発の新たな出発点を創る、グレーディング・プラットフォームです。

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株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスは、映像制作におけるルック開発の新たな出発点を創るグレーディング・プラットフォーム「Lucerion(ルシリオン)- The Look Baseline Platform -」のサービスを提供開始いたしました。