カラーマネジメントサービス「Colette」を採用、TROYCAがモニターの“色”にこだわる理由とは?

長野敏之・加藤友宜・あおきえいの3人が中心となり、2013年に設立された株式会社トロイカ。『ATRI -My Dear Moments-』や『オーバーテイク!』『忍の一時』『アイドリッシュセブン Third BEAT!』といった、さまざまなアニメ作品を世に送り出してきた。

同社が良質な作品作りの基盤として、当初からこだわっているのが、スタッフ全員の“視環境”だ。作業用のモニター環境を管理し、統一することの重要性やその目的について、トロイカの取締役副社長兼撮影監督の加藤友宜氏と、それを支援する株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下、Imagica EMS)技術部門の長谷川智弘・柴田香澄が語る。


対談者

撮影監督:加藤 友宜 氏(株式会社トロイカ)
カラーイメージングエンジニア:長谷川 智弘(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)
アニメーション制作グループ エディター:柴田 香澄(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)

「カラーマネージメント」により、スタッフのための“視環境”作りにとことんこだわる

長谷川:加藤さん、今回はお時間をいただき、ありがとうございます。

加藤:こちらこそ、いつも長谷川さんと柴田さんには作品のV編(アニメ作品におけるオンライン編集)や作業用モニターのキャリブレーション※1 でお世話になっています。

※1:キャリブレーション(Calibration):「校正」や「調整」を意味する言葉。モニターのキャリブレーションとは、モニターの色温度や輝度、色域などを目標値に合わせて調整すること。

長谷川:キャリブレーションについて、トロイカさんは以前から強く意識されていますよね。

加藤:そうですね。「色にこだわる」という感覚についてはクリエイター一人ひとりが当たり前のようにもっていると思いますが、一方でその根幹になる「色を見る環境にこだわる」ということは、制作会社が意識をして整備しなければなりません。

ハードウェアに関するテクニカルな知識がなく、とりあえずその場にある機材で制作しているようなスタジオ環境だと、クリエイターの色に対する感覚もなかなか成長しにくいのではないでしょうか。

株式会社トロイカの加藤 友宜 氏

長谷川:「クリエイターが、与えられた環境で最大限のパフォーマンスを発揮する」その前提条件として、「会社が、色を見る環境にこだわる」ということですね。

加藤:やはり、管理者が責任をもってモニター環境を整え、定期的に確認・調整すべきだと思います。印刷業界では、モニターとプリンタの色合わせは当たり前のようにシビアに行われていると聞きますが、アニメの制作現場では、組織的なサポートがない限りはColorEdge※2 導入時にキャリブレーションを行ったとしても、継続的な管理を行うことは難しいように思います。

※2:ColorEdge:キャリブレーションに対応したEIZO製のカラーマネージメント液晶モニター

柴田:制作会社さんによっては、1台マスターモニターがあって、ラッシュチェックで全カットの色合わせをするケースもありますね。それでも、作業者の方は余計な手戻りが発生してしまうことになります。マスターモニター環境がない場合、V編の工程で私たちが色のバラつきを細かく調整することもあります。これは稀な例ですが、テレビ用の作品を劇場用の設定で制作していたことにV編で気付いたこともありました。

アニメーション制作グループ エディター:柴田 香澄

加藤:それは想像しただけでも冷や汗が出ますね…。

長谷川:ラッシュチェックで戻されたところで、そもそもマスターモニターと作業モニターの視環境が違っていると、担当者は監督が意図した修正ができず「指示した通りに直っていない」と不毛なやりとりが発生してしまうことになります。

加藤:そうですね。とはいえモニターを統一して管理していくことには当然費用も伴うので、コストを考えるとマスターモニターでチェックしてなんとか合わせる、もしくはポスプロの会社さんにV編で調整してもらうというのも一つの答えかもしれません。

しかし、クリエイターの育成という視点で、目を養わせるにはどうしたら良いかを考えると、やはり最適な作業環境を整えることが制作会社の役目ではないかと思います。

統一された視環境と1シーンごとの担当分けが安定した映像美の秘訣

長谷川:トロイカさんは現在、全17台のColorEdgeでオフィスにあるすべての作業用モニターを統一されていますね。

加藤:はい。トロイカを設立してオフィスを借り、最初にやったのがモニターを揃えることでした。同時に、早い段階からImagica EMSさんにモニターのキャリブレーションをお願いするようになりました。

トロイカはシステム管理専門の担当者を置いておらず、その辺は私が担っています。以前は撮影監督として自分も制作に取り組む傍ら、定期的にモニターを1台1台チェックして色温度や輝度を調整したり、推奨の設定から変えないようにロックをかけたりしていました。なかなか手間のかかる作業で、このまま人が増えてモニターの台数が増えていったらさすがに自分だけでは追いつかなくなると焦り始めたとき、出会ったのがImagica EMSさんのキャリブレーションサービスでした。

長谷川:これまで弊社スタッフがトロイカさんのオフィスに何度かお邪魔し、計測器でモニターの状態を確認した上で、定められた基準に合致するよう調整させていただきました。

加藤:Imagica EMSさんのモニターと統一していただけるのもありがたいです。クライアントにも「ポスプロであるImagcia EMSと同じ視環境で制作しています」と言えるので、安心してもらえます。

柴田:実際にV編をしていても、すべてのカットが統一されているので、こちらで調整することはほとんどありません。自分の作業がラクになるという意味でも助かっています(笑)作品によっては、同じシーンのなかでもカットごとに微妙に輝度が違っていて、調整が必要になる場合もあります。

加藤:通常、アニメ制作の撮影工程では1カットごとに撮っていくのが一般的です。しかし、そうするとフレアやフィルタの使い方が作業者によって違うので、モニター環境を統一したとしても多少のバラつきが出てしまう。

トロイカでは、シーンごとの統一感をもたせるために、シーンごとに担当を決めて、1人が全カットを撮っています。カットごとに担当を分けた方が効率的ですが、クオリティを優先して、その分キャリブレーションの作業には手間をかけず、Imagica EMSさんにサポートしてもらうという考え方です。

柴田:作業分担にまでこだわっているとは…統一感の謎が解けました。そのようななかでも、ときどき波形で見ないとわからないような微妙な色味の違いに気付いてリテイクされることもありますよね。気付く加藤さんにも、それを的確に修正する作業者さんにも驚きます。やはり日頃から良い環境で制作しているからこそ、「見る力」がより洗練されているのだと思います。

カラーマネージメントサービス「Colette」 でスタッフがよりクリエイティブに専念できる環境を実現

長谷川:トロイカさんには会社の設立当初から弊社のキャリブレーションサービスをご利用いただいてきましたが、2023年からはリモートにも対応したカラーマネージメントサービス「Colette」(コレット)をご利用いただくようになりました。

以前はオフィスにお邪魔して作業をしていましたが、同時に複数の作品を切れ間なく制作されているなかで、なかなか訪問するタイミングが合わず、定期的な確認ができないという課題意識をもっていました。そこで始めたのが「Colette」です。EIZO株式会社が提供するColorNavigator Networkを活用することで、私たちエンジニアが遠隔でトロイカさんのモニター環境を確認し、必要に応じて調整できるようになりました。

カラーイメージングエンジニア 長谷川 智弘

加藤:やはり以前は、Imagica EMSさんにキャリブレーションをしてもらってから時間が空くと「大丈夫かな?自分でなんとかしなければ…」という不安も感じていました。「Colette」に変わってからはモニターの状態について毎月レポートを送っていただけるので、その安心感は非常に大きいです。

レポートは項目ごとに一覧表示されていて、すぐに調整すべき内容とそうでないものの優先度も一目瞭然。今後のタスクがわかるのでとても助かります。不安に駆られて不定期でモニター環境をチェックするという余計な作業は一切しなくなりました。それだけでとても大きな価値があると思います。

長谷川:そうおっしゃっていただけると嬉しいです!毎月の報告が逆に不安を煽ることになってしまうと意味がないので、システムから抽出、編集したレポートを私ともう1人のエンジニアでダブルチェックし、できるだけわかりやすいように独自のフォーマットでお送りしています。

加藤:ありがたいですよ。レポートを一目見て「問題ないなら大丈夫」と確認できたら、それが一番ですからね。逆に、何もリアクションを返さず申し訳ありません…。

長谷川:いえいえ、連絡がないのは安心していただけている証拠だと思っていますので、余計な返信は不要ですよ(笑)急ぎの調整が必要な場合はこちらからご連絡します。

これからも、技術面は私たちにお任せいただいて、トロイカの皆さんがよりクリエイティブに集中できる環境を整えていきたいと思いますので、何かあればお気軽にご意見をください!

加藤:ありがとうございます、心強いです!創業当初からImagica EMSさんにはお世話になってきて、実績を積み重ねたからこその安心感があります。

「Colette」については、たとえば外部パートナーのモニター環境のリモート管理もお願いするなど、更なる可能性を感じています。

最後に、少し話は逸れますがImagica EMSさんに要望をひとつ…。冒頭で話したように、アニメ制作業界全体で考えたとき、モニター環境を統一することについて、管理者側の意識がまだまだ低いと思います。しかし、このままではクリエイターが育ちません。

そこで、ぜひImagcia EMSさんには“色のプロ”として、アニメ制作会社の管理者向けに勉強会を開催して欲しいです!きっとポスプロの会社だからこそ話せることがたくさんあるはず。開催するときは私も参加するので、声をかけてください(笑)

リモートカラーマネジメントサービス Colette