映画の”全世界同時公開”の裏側で何が起きているのか想像したことがありますか?

本記事は2020年8月27日に、note.imagicalab.co.jpに公開された記事を再編したものです。記事内容及び社名は当時のものです。

全世界興収〇〇億ドルといった数字を叩きだすようなハリウッド大作映画について、いつの頃からかよく目にするようになった「全世界同時”公開”」というキャッチコピー。

日本国内ですら地方によっては公開時期が違っていた一昔前と比較すると相当な進歩ですよね。でも、こうしたコピーも、以前ほどのインパクトは薄れてきたように感じるのは、「全世界同時”配信”」が当たり前の時代になってきているからかもしれません。

ところで、公開または配信、どちらでも良いのですが、映画・TV番組・配信用オリジナルなどコンテンツ制作者がつくり、世に届ける映像作品の「バージョン」は最終的にどのぐらいの数になると思いますか?

言語版(ローカライズ)の多様性

まず何といってもバージョンの多様性を爆発的に高める要因になっているのが世界各地の現地言語版、いわゆるローカライズ版です。

字幕(Subtitle) と吹替(Dubbing)の両方を用意するか、またはひとつにするかは、その国や言語によって異なりますが、翻訳されたローカライズ版が、公開言語数もしくはその倍数ずつ出来上がるわけです。

IMAGICA Lab.の兄弟会社には、世界最大のメディア・ローカライズ企業であるSDI Media社があります。世界28か国32拠点に150以上のレコーディング・スタジオを所有し、世界各地で公開される作品の字幕・吹替などローカライズサービスを幅広く手掛けています。

2019年6月にIMAGICA Lab.とSDI Mediaが共同で「株式会社IMAGICA SDI Studio」を立ち上げ、今年2月より事業を本格的にスタートしました。日本国内のダビングサービスも拡充を推進しています。

公開フォーマットの違い。そして最終的なバージョン数は…

次に、昨今、劇場で見かける映像・音声フォーマットの種類を並べてみましょう。

字幕版、吹替版、2D版、3D版、IMAX(R)版(*)、Dolby Cinema(TM)版(**)、5.1ch版、7.1ch版、Dolby Atmos(R)版(**)

大手シネコンに行くと、同じ作品でも複数のフォーマットで上映されていて、どれにすればよいのか迷ってしまいますよね。大好きになった作品なら、フォーマット違いを楽しむために何度も劇場に足を運んでしまうこともあるのではないでしょうか。

これだけのフォーマット違いが、上述のローカライズ版に掛け算されるのですから、あっという間に100バージョンを超える数が必要になってくることは容易に想像できるかと思います。

ここで答えを出してしまいますが、世界規模で公開するハリウッド大作ともなると、最終的に世に出回るバージョンは300を超えると言われています。

パッケージ・配信フォーマット

劇場公開時点ですでにバージョンは100の桁に辿り着いていますが、劇場公開の後にはパッケージメディアの発売が続きます。DVDやBlu-rayですね。最近はUHD Blu-rayといった高精細フォーマットも普及し始めました。なのでここでもまた複数のバージョンを準備することになります。

少しバージョンの話からは逸れますが、劇場公開と違い、パッケージメディアにはメニュー画面や特典映像など、本編以外の制作物も入ってきますので、完成に至るまでには更に一手間も二手間も掛かってきます。

現在ではここから更に、数多くの配信メディアに作品が流れていきます。しかも各社・各サービスの配信ファイルフォーマットや棚に並べるサムネイル、メタデータはそれぞれ異なります。最終的にバージョン数やアセット数が幾つになるのかを追いかけ、正確に把握するのは容易ではありません。

数えきれないほどのバージョンを揃えてやっと…世界同時公開

「世界同時公開」という一言の裏で起こっているバージョン数との壮絶な戦いをなんとなくでも感じていただけたでしょうか。劇場映画ではなく、配信用オリジナル作品についても似たような状況にあります。むしろ世界規模のサブスク動画配信サービスでは、主要言語の字幕版・吹替版が作品リリース時点で整然と準備されています。冷静に考えてみると驚異的です。

「相応の時間を掛ければいいだけでしょ?」という声もあるかもしれませんが、時代や技術の進歩とともに、コンテンツが提供、消費される速度は増すばかりです。制作と配給・配信準備に掛けることができる時間や、バージョン管理に費やせる工数も否応なく制限されてきます。

IMAGICA Lab.のファミリーにはもう1社、当社グループがつい先日のリリースで連結子会社化を発表したPixelogic社という会社があります。

彼らはハリウッドの最前線で、われわれが”E2E (End to End)”と呼ぶメディアサービスを全世界規模で提供しています。すなわち、オリジナル言語のマスターが完成後、世界各国に向けて劇場公開版、パッケージメディア版、配信メディア版など、数百種類ものバージョンを管理し、”完パケ”を仕上げているわけです。複雑で多様なフォーマットへの対応、あらゆる仕向け地に向けたローカリゼーションとバージョン管理、世界最高レベルの要件を満たすセキュリティ体制、そしてそれをスピード感をもって実現するための経験と技術力を備えた強力なパートナーです。

IMAGICA Lab.が日本市場で培ってきたデジタルシネマやパッケージ・配信メディア向けのサービスと高い親和性があり、将来ますます高まると予想されるグローバルなディストリビューション需要に応えるため、この先一体となってサービス向上を目指していきます。

モノが自由に行き交う世界市場が生まれてから長い時間が立ちますが、今やそうした市場のグローバル化が映像コンテンツの流通を劇的に変えようとしています。

IMAGICA Lab.も、今回改めてご紹介した海外の兄弟会社2社も皆、クリエイターが生み出す素晴らしいコンテンツを、最高品質で安全、タイムリーに世界中のお客様にお届けすることをその共通使命としています。

このマガジンでは、これからもGlobalに関連した取り組み・トピックをご紹介して行きたいと思います。何かしらご興味を持たれた方がいらっしゃれば、ぜひ私どもにお問い合わせください。

* IMAX(R)は、IMAX Corporationの登録商標です。
** Dolby、Dolby Cinema、Dolby Vision、 Dolby Atmos、ドルビー及びダブルD記号はドルビーラボラトリーズの登録商標です。