HDRの映像表現の真価とは?平成ガメラ3部作の4K HDR ドルビーシネマ版デジタルリマスターで解説

KADOKAWA「ガメラ生誕55周年Gプロジェクト」の一環として、平成ガメラ三部作の4K HDR ドルビーシネマ版が、昨年より劇場で連続公開されました。

この度のリマスターによって、作品制作当時のオリジナルネガのもつ情報量を最大限に引き出し、HDR(High Dynamic Range)として生まれ変わった映像の表現力について詳しく解説します。

デジタル修復後のマスターデータからスタート

本作は2016年に「ガメラ」公開50周年を記念して、一度修復作業を行っています。当時、オリジナルネガを4K高解像度でスキャンし4Kデジタル復元を行ったのですが、最終のアウトプットでよりよいクオリティを実現できるよう、非圧縮10bit-Logの状態で各行程の作業を進行しました。それは、将来的な新規格への対応も考慮して、情報量を限りなく保持した状態でマスターデータを作成・保存するための判断でした。

今回のHDR化はそのマスターデータを出発点とし、新たにDolby Cinema版・UHDBD版のHDRカラーグレーディングを行っています。

新たなリマスター版制作のプロセス

マスタリング作業は映像と音声をそれぞれ別の工程で進めていきます。音声に関して今回は元の素材の捜索から始まりました。倉庫に保管していたシネテープを調べ、LD BOX用の5.1chミックスのマルチ素材をベースに進めることになりました。

録音技師の橋本泰夫さんが当時のご自身の台本の書き込みから金子監督の意図を読み解き、Dolby Atmosの立体的な演出を活かした新たな音響を作り込んでいきます。

HDRによる「暗さの中の暗さ」

「ガメラ」シリーズは海中や、ナイトシーンも少なくありません。炎や逆光で描かれた印象的な“シルエットカット”も作品を象徴するキービジュアルになっており、暗部のディティール表現が作品全体の印象に大きな影響を与えます。

HDRの表現域を用いれば、従来のSDR(Standard Dynamic Range)では十分に表現できず、潰れてしまっていた影や光の芯の部分はグラデーションがより繊細になり、影の中には更なる質感やディティールが描写できるようになります。

明暗の幅や色数が増加することで、画面全体が豊かに感じられ、奥行や空気感がよりいっそうリアルに感じられるようになりました。(画像は各特性を疑似的に表現したイメージです)

4K SDR版
4K HDR版

「ガメラ 大怪獣空中決戦」©KADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ/1995

しかし、“本来あった情報”を引き出すことでただただ「見えるようになる」だけではその真価を発揮できているとはいえません。

怪獣だけでなく水滴や火炎、俳優陣の演技に込められた表情の細部に至るまで、シーンに応じてオリジナル演出意図を尊重しながらも、さらに観客を惹きつける映像に仕上げていくため1カットずつ丁寧な調整を重ねていきます。

当社が初号ラボでもあるので、まずは完成当時のフィルム仕上げに携わった技術者の意見や、タイミングデータ(上映用プリント焼付け時の色彩調整値)を参照したりしながら全編を整えたベースを作成し、撮影監督の木所寛氏(G1,G2)、村川聡氏(G3)の立会いのもとで更なるブラッシュアップを行いました。

Dolby Vision HDRとはいえど、1000nitsピークのモニター視聴用、108nitsピークのスクリーン視聴用の仕様の違う2フォーマットに対し、それぞれ最適な環境下で作業をしています。使用機材はDaVinci Resolveを用いました。

特撮作品特有の難しさ

豊かな階調やディティールの復元に伴って、特撮作品特有の問題も発生します。

まず一つは、特撮・合成・ハイスピード・通常シーンそれぞれ、撮影条件に応じて最適なネガフィルムを使い分けていたため、その粒状性や色味の違いがより明確になってしまいます。

また、特撮シーンにおいては意図していなかったものが「見えてしまう」ことによる、高画質化・HDR化の副作用とも呼ぶべき現象も起きてしまうため、“当時の仕上がりで気にならなかった程度”を基準として個別に修正を加えていきます。

デグレイン処理、オプチカル合成の境界エッジの馴染ませ、消し作業等の追加行程はより細かな調整が可能なソフトウェアを別途組み合わせて対応しました。

これらの作業もまた関係各位の意見をもとにしながら、味を消し去ることなく、作品としてのクオリティを確保することを心がけました。

リマスター作業で気がついた自社の看板

作業を進める間に、制作当時の「遊び心」の痕跡を見つけることもできました。画面中央の折れた東京タワーの右下に、小さく当社の看板(ロゴ)がミニチュアセットとして映り込んでいます。

ネガフィルムに込められた素材としてのポテンシャルを最大限に引き出し、作品全体としての調和をとりながらHDRの良い部分を活かして、平成ガメラ3部作は新しい映像表現として生まれ変わっていきました。