アジアの名作映画のデジタル修復事業~IMAGICA Lab.の挑戦!~

本記事は2020年11月13日に、note.imagicalab.co.jpに公開された記事を再編したものです。記事内容及び社名は当時のものです。

海外映画の修復の取り組み

映画が誕生して120年以上の間に、世界では数々の名作映画が生まれてきました。近年では、政府や公共機関が主体となり、文化的・歴史的価値の高い映画のデジタル修復事業を行うケースが増えています。
IMAGICA Lab.は、世界でも有数の映画修復ラボとして、国内のみならず、台湾、香港、シンガポール、マレーシア、ミャンマーを含む様々な地域の映画の修復や国際交流事業に携わってきました。

デジタル世界への移行に伴い、これまで生み出されてきたアナログの「フィルム」を扱うことのできる技術者や設備が急速に少なくなってきている中、 1935年の創業以来、フィルムの現像やポスプロを通じて数々の作品の誕生に立ち会ってきた私たちが、さらにフィルムの「修復」を通じて、世界の映画作品の継承のお手伝いができるのはとても嬉しいことです。

今回は、アジア作品のデジタル修復に関するIMAGICA Lab.の挑戦をいくつかご紹介します。

事例(1)台湾 ~巨匠ホウ・シャオシェン監督『風が踊る』の修復や日台文化交流~

台湾には、TFAI(台湾フィルム・オーディオビジュアル・インスティチュート:Taiwan Film and Audiovisual Institute)という映像アーカイブ機関があり、過去の台湾映画やテレビ番組などを収集・保存しています。IMAGICA Lab.ではTFAIが保存するフィルムのうち、貴重な台湾映画 計7作品の修復を担当させていただきました。世界から愛されている巨匠ホウ・シャオシェン監督作や、台湾映画史において極めて重要な数々の作品のデジタル修復にも携わっています。

ホウ・シャオシェン監督『風が踊る』(1981年)2Kデジタル修復Before&After

Li Hsing監督『Brother Wang and Brother Liu Tour Taiwan』(1959年)2Kデジタル修復 Before&After

※上記動画はTFAIが提供しており、中国語表記となっております。ご了承ください。

通常のデジタル修復工程においては、できる限り「映画公開当時のオリジナルに近づけること」を目的に、フィルムに付着したゴミやキズ、経年劣化による歪みなどの症状を、デジタル上で修復したり、褪色補正を行ったりします。

しかし、特に『風が踊る』のケースでは、そのような傷みに加えて、一般の映画には見られない、色が反転するほどの激しい褪色や、焼き込みの字幕が存在し、修復にはかなりの労力が費やされました。特に褪色補正の工程では、通常の補正方法が適用できなかったため、技術者たちによる試行錯誤のすえ、本作のための特別な褪色補正技術を社内で開発し、修復が実現しました。

また、2018年には映画の修復作業に加え、TFAIスタッフ5名を迎え入れ、映像修復に関するトレーニングプログラムを実施しました。このプログラムでは、IMAGICA Lab.の熟練技術者が講師となり、フィルム・アーカイブに関する基礎講座をはじめとして、フィルム現像機等の施設見学、さらにはフィルムの物理補修から、スキャニング、デジタル修復、カラー・グレーディングまでにいたる一連の実習が行われました。

私たちにとっても、台湾における映画保存の事情に関して見聞を広め、新たな気付きを得ることのできた、とても貴重な経験となりました。このような活動が、アジア圏を含めた世界の映像アーカイブの持続可能な環境構築に繋がればと考えています。

事例(2)香港 ~香港映画史に残る傑作『Butterfly and Red Pear Blossom』の修復~

香港映画と言えば、一般にいわゆる「カンフー映画」が有名ですが、もちろんそれだけではありません。香港の貴重な映画を収集及び保存するHKFA(香港フィルム・アーカイブ:Hong Kong Film Archive)では、香港映画史において重要な作品を定期的にデジタル修復しています。

なかでも貴重な『Butterfly and Red Pear Blossom』(1959年、Lee Tit監督)の2Kデジタル修復は、IMAGICA Lab.にて行われました。本作は、香港映画の黄金期である1950年代に製作され、広東オペラ史における最も偉大な台本作家の一人 Tong Tik-sangによる脚本のもと、広東オペラ・映画・文学の三つの芸術形態が収斂する傑作と言われています。

白黒映画でありながら、豪華絢爛な衣装やセット、繊細な画の諧調や歌声など、本作が本来持つ「美」を最大限に引き出すために、丁寧に修復作業を行いました。

HKFAが作成した『Butterfly and Red Pear Blossom』デジタル修復過程の記録映像
※IMAGICA Lab.は2:30~4:20ごろに登場します。

※上記動画はHKFAが提供しており、中国語・英語字幕のみでの公開となっております。ご了承ください。

事例(3)シンガポール ~カンヌ国際映画祭出品作『放火犯』の修復~

シンガポールには自国映画のみならず、東南アジア各国の映画の収集や保存に積極的なアジアン・フィルム・アーカイブ(Asian Film Archive)があり、IMAGICA Lab.は過去に数作品のデジタル修復を担当しています。

昨年度は、『放火犯(原題:Kaki Bakar)』(ウーエイ・ビン・ハジサアリ監督、1994年)というマレーシア映画の修復をお手伝いしました。本作は、マレーシア映画では初めてカンヌ国際映画祭(「ある視点」部門)に選出されるなど、国際的に評価の高い作品です。

多くのクラシック映画では、オリジナルの素材は「フィルム」ですが、本作ではフィルムのほかに、より状態の良い「ビデオ」(βカム)が保存されていたため、後者を素材としてデジタル修復を施すこととなりました。多くの傷やビデオ特有のノイズなどがあったため、それらが丁寧に取り除かれました。

修復before/after

修復before/after

修復before/after

事例(4)ミャンマー ~日本政府による映画交流事業への協力~

昨年度、日メコン交流10周年およびミャンマー映画生誕100周年記念として、日本政府が国立映画アーカイブやミャンマー情報省等と協力して、映画分野における交流事業を実施しました。本事業に、IMAGICA Lab.は総合協力企業としてお手伝いさせていただきました。

この事業協力は、日本映画の多様な魅力を発信するとともに、両国の映画機関の国際的ネットワークを強化し、さらにはミャンマーの映画産業・文化の発展への貢献を目的とするもので、事業の柱は以下の通りです。

1:国立映画アーカイブが実施した、日本とミャンマーの初の共同制作作品『日本の娘』(1935年, 監督:ニープ、共同監督:枝正義郎 他)のデジタル復元事業における技術協力

2:クラシック映画の上映会等の開催

  • ミャンマーでの日本クラシック映画の月例上映会
  • ミャンマーでのジャパン・クラシック・フィルム・フェスティバル
  • 国立映画アーカイブでの『日本の娘』[デジタル復元版] 上映およびトークイベント

(ユネスコ「世界視聴覚遺産の日」記念特別イベント 『日本の娘』[デジタル復元版]特別上映会)

3:ミャンマーでの映画修復ワークショップの開催

4:ミャンマー映画関係者等の日本招聘プログラムの実施

詳細は以下レポートからご参照いただけます。

今回は、海外クラシック映画の修復や、それに関わる国際交流事業について、IMAGICA Lab.の挑戦をご紹介しました。IMAGICA Lab.のアーカイブサービスについてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ公式ホームページをご覧ください。

世界に眠る貴重な映像はまだまだあります。IMAGICA Lab.は、今後も様々な映像の保存や継承に貢献していきたいと思います!