世界を繋ぐ標準化の力、SMPTEとImagica EMSが語るメディア・エンタテインメント技術の未来

グローバル化が加速するメディア・エンタテインメント業界において、技術の調和と相互運用性はコンテンツ制作から配信に至るまであらゆるフェーズで不可欠な要素であり、この重要な役割を担っているのが米国映画テレビ技術者協会(SMPTE)です。
今回、6年ぶりに日本で開催されたSMPTEの標準化技術委員会議(Technical Committee Meetings:TC meetings)で来日したSMPTEのRaymond Yeung 氏とThomas Bause Mason 氏を迎え、IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(Imagica EMS)の技術部門を統括する清野 晶宏との対談を実施。
SMPTEのグローバルな活動の重要性や最新の活動、そしてImagica EMSがその中で果たす役割について語り合いました。


対談者

Raymond Yeung 氏(SMPTE, Standards Vice President / Amazon MGM Studios, Head of Content Standards)
Thomas Bause Mason 氏(SMPTE, Director of Standards Development)
清野 晶宏(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス, シニアテクニカルディレクター)


SMPTEが世界に拡げる標準化の輪

清野今日は対談よろしくお願いします。6年ぶりに日本でのTC meetings開催となりますが、久し振りの日本はいかがですか。

トーマス6年前の日本開催もIMAGICAが会場でしたが、場所はここではなく五反田でした。対応してくれたみなさんがフレンドリーだったことを覚えています。今回も立地的にも良く、会議も良い形で進んでいて、大変感謝しています。

清野そう言っていただけて光栄です。それではまず、SMPTEがどのようなミッションをもって活動しているのかから教えてください。

トーマスSMPTEは、まさに世界的なミッションを担っています。私たちは「技術の調和と相互運用性」を何よりも重視しており、そのためには北米だけでなく、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、オーストラリア、ニュージーランドといった世界各地に目を向ける必要があります。つまり私たちは、世界のメディア・エンタテインメント技術のための議論の場となることを目指しているのです。
そのために、南米、アフリカ、そして中東にも活動を広げており、先日サウジアラビアでもイベントを開催しました。グローバルなアウトリーチを行い、国際的な議論のために人々をSMPTEに招き入れることは、私たちにとって非常に重要なことです。なぜなら、私たちは国際的に認められた標準規格を策定しているからです。

レイモンド日本においては、ありがたいことにSMPTEの活動に賛同する協力的な企業や参加者が多くいます。日本支部のような公式な形では活動していませんが、Imagica EMSやNHKのような企業や特定の人々と、継続的にとても良いコミュニケーションが取れていると思います。

トーマス各国のニーズを把握し、もし調和が不可能だったとしても、すべての異なる要件に対応できる標準を作成できると考えています。

SMPTEのDirector of Standards Development、Thomas Bause Mason 氏

メディア・エンタテインメント技術の最前線

清野今回のTC meetingsのテーマはどういったものがありましたか?

トーマスまず、デジタルシネマは引き続き重要なテーマです。多くの改訂作業が進んで採用も拡大しており、IMF(Interoperable Master Format)のメンテナンスにも取り組んでいますし、メディアのIP伝送ではST 2110やIMFデジタルシネマなどについて議論をしています。また、新しい重要なトピックとして放送ワークフローにおけるHDRカラーマッピングがあります。Common LUT FormatはEBUから提案される放送プロファイルを持ち、単一のHDRソースワークフローには、ブラウザやデスクトップレンダリングにおいて大きな効果があるSMPTE ST 2094の動的メタデータが含まれます。

清野HDRカラー変換のためのSMPTE ST 2094動的メタデータが、ブラウザメーカーに採用されたと聞き驚きました。

トーマス はい。Microsoft EdgeやGoogle Chrome、その他にもAppleなど、通常SMPTEではあまり活発ではない企業がこの取り組みを支持したことには私たちも驚いています。

清野近年注目が高まるAIへの取り組みはどうですか?

トーマスAIはまさに将来的な方向性として非常に注目しています。AIについてはタスクフォースがあり、現在SMPTEの中に3つのプロジェクトを立ち上げています。具体的には、AIメタデータとLLM(大規模言語モデル)に関するプロジェクト、そしてコンテンツ検索をサポートする埋め込み(embeddings)に関する取り組みです。

レイモンドこれらの取り組みは、AIによるコンテンツ制作をより容易にすることに繋がると思います。

トーマスさらに、C2PA(Content Authenticity Initiative)にも取り組んでいます。これはコンテンツの来歴と信頼性を保証するものです。私たちはこれをテーマにした研究会を近々立ち上げようとしており、日本のみなさんにもぜひ参加してもらいたいと考えています。

清野ぜひ検討させてください。フェイクコンテンツの問題が拡大している中で、コンテンツの信頼性は非常に重要なテーマですね。

トーマスそうです。AIがこれから進化していく中で、とても重要なテーマだと思います。この他にもメディア・イン・ザ・クラウド(Media in the Cloud)やサステナビリティなど、様々なテーマに取り組んでいます。

清野本当に数多くのテーマに取り組んでいて、まさに「世界のメディア・エンタテインメント技術のための議論の場」ですね。

日本独自の要件を国際標準へ

トーマス SMPTEのグローバルな活動の中で、Imagica EMSは非常に重要な役割を担っています。日本の主要なポストプロダクションとして、日本市場に関する多くの情報をSMPTEにもたらしてくれるため、国際的な標準化を進めるにあたり、とても助かっています。

清野ありがとうございます。私たちもSMPTEによる標準化がとても重要だと考えています。
ひとつは、日本独自の特別な要件が必要になる場合、例えばSMPTE EG 428-23: Mastering Guideline for Japanese Timed Text DCDMsのプロジェクトを現在進めていますが、その理由の1つとして、既存の規格は部分的に使えるかもしれませんが完璧ではなく、特に日本語の字幕について調整が必要なため、当社のエキスパートとともに国際標準化に向けて取り組んでいます。
もうひとつは、新しい話題にキャッチアップするためです。日本の技術の多くは米国の後を追いかけている傾向がありますが、私たちはそれに追いつくだけでなく、一緒に作っていきたいと考えています。グローバル化が加速し、コンテンツが国境を超えて多くの視聴者に楽しまれている中で、常に最新の話題にキャッチアップしていることが必要だと感じています。

トーマスホットな話題と言えば、ACES(Academy Color Encoding System)は今、日本でも非常に注目されていますね。SMPTEとImagica EMSはACESに関する技術セミナーを共催しましたが、会場にこれほど多くの人が集まったことに驚きました。ST 2110やAIであれば満員になるだろうと予想していましたが、それに匹敵する人数でしたね。

清野はい。セミナー後もたくさんの声をお寄せいただき、とても手応えを感じました。注目されているトピックですので、実案件でしっかりサポートさせていただけるよう、継続して取り組んでいきます。

シニアテクニカルディレクター 清野 晶宏(左)とSMPTEのStandards Vice President、Raymond Yeung 氏(右)

レイモンドACESは制作されたメディアにおいても大きな話題になっています。スタジオでもACESに関する質問をよく受けますよ。

トーマスACESは、ダイナミックレンジに依存しないこと、HDRが組み込まれていることなど、そのポテンシャルは非常に高いです。私は以前、大手メディア・エンタテインメント企業とHDR放送について話していた際、ストリーミングでACESの16ビット半浮動小数点リニア色空間に完全に移行しないのはなぜか、と提案したことがあります。当時は突飛なアイデアだと思われましたが、今はそれが現実となりつつあります。

清野以前はできなかったことが、できるようになってきているということですね。私たちはお客様から色々と技術的なご相談をいただくので、常に最新の情報にキャッチアップして対応ができるようになっている必要があると感じます。
SMPTEがメディア・エンタテインメント技術のグローバルスタンダードを牽引する重要な存在であることが改めて認識できましたし、ACESやAIといった最先端のテーマに関する標準化への取り組みは、業界の未来を形作る上で不可欠だと思いました。私たちもこれまで以上に議論に参加させてください。

トーマスぜひお願いします。私たちも今回の対談やTC meetingsを通じて、日本市場特有のニーズがあることが改めて分かりましたし、SMPTEのグローバルな標準化活動を日本で進めていくにあたって、Imagica EMSの技術や経験が必要だと感じました。

レイモンド技術の進化は止めることができません。だからこそ私たちは協調して、未来の標準を築いていく必要があります。この対談がそのための新たな一歩となることを願っています。

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