『すずめの戸締まり』新海誠作品の世界観を陰から支えた、高精度なモニター環境を担保する「技術」と「システム」の力

2022年に公開された新海誠氏の監督・脚本によるアニメーション映画『すずめの戸締まり』。

興行収入が公開126日間で141億円を突破し、観客動員数は約1,068万人を記録。新海監督の新たな到達点とも言える傑作が誕生した。

そして、その裏側にはアニメーション制作を進めるうえで非常に重要なモニターの環境を一新するという、制作会社としての大規模な変革があった。

今回は、『すずめの戸締まり』を制作した株式会社コミックス・ウェーブ・フィルムでシステム管理を担う都川 眞栄 氏と、環境構築を支援した株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス技術部門の長谷川 智弘・森田 泰考の3名が、その取り組みを語る。


対談者
システム管理:都川 眞栄 氏(株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム)
カラーイメージングエンジニア:長谷川 智弘(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)
システムサポート:森田 泰考(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)

【あらすじ】
九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、「扉を探してるんだ」という旅の青年・草太に出会う。彼の後を追って迷い込んだ山中の廃墟で見つけたのは、ぽつんとたたずむ古ぼけた扉。なにかに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばすが…。
不思議な扉と小さな猫に導かれ、九州、四国、関西、そして東京と、日本列島を巻き込んでいくすずめの“戸締まりの旅”。旅先での出会いに助けられながら辿りついたその場所ですずめを待っていたのは、忘れられてしまったある真実だった。

コミックス・ウェーブ・フィルムが導入した、当社のカラーマネジメントコンサルティングとリモートキャリブレーション

長谷川:都川さん、このたびは当社のカラーマネジメントコンサルティングとリモートキャリブレーションサービスをご利用いただき、ありがとうございます。

都川:2019年冬にIMAGICAさんにご相談を開始して、様々なサポートをいただき、『すずめの戸締まり』は新たな環境で制作できました。

森田:改めて、今回のサービスは、モニターやプロジェクターなど、映像制作現場の表示デバイスや視環境に関する課題を、「技術」と「システム」の両面で解決するものです。

・カラーマネジメントコンサルティング(技術)

カラーマネジメントを主とした技術回り全般のご相談(ハードウェア・ソフトウェアの設定や、ワークフロー、モニターの運用方法など)

・リモートキャリブレーションサービス(システム)

EIZO株式会社様(以下EIZO)が提供するColorNavigator Networkを活用し、IMAGICAエンタテインメントメディアサービスが所有する高精度な計測器を用いることで、複数台のモニターの一元管理と高精度なキャリブレーションを実現

これにより、作品の品質向上や制作側の機材管理、作業負担の軽減に寄与します。

都川:今回、CWFではIMAGICAさんのサービスを利用して、制作環境の改善、システム管理として負担の大きな軽減につながりました。

コミックス・ウェーブ・フィルム 都川 眞栄 氏

「自社の視環境を統一したかった」導入前の課題

長谷川:そもそも、どのようなきっかけでモニターの環境を改善しようと考えたのでしょうか?

都川:最初のきっかけは、前作『天気の子』の制作が終わった2019年頃、銀座にあるEIZOさんのショールームにお邪魔したことでした。担当の方からマンツーマンでモニターについていろいろ教えてもらい、環境による色の見え方の違いに驚いたんです。また、ソフトウェアキャリブレーションと、ハードウェアキャリブレーションについても学ばせてもらい、CWFにはハードウェアキャリブレーションができる環境が必須だと感じました。

自社の環境を見つめ直してみると、新海監督はMacを使い、クリエイターはEIZOさんのFlexScanというモニターを使っていて。Apple製品はDCI-P3というデジタルシネマ用規格に近い色域であるのに対し、FlexScanはsRGB…。それに加えて、制作者の一人ひとりの色環境が制作期間を通して統一できていたのか気になり始めました。

『天気の子』まではモニターの機種をFlexScanで統一、必要に応じて買い足していくという考え方でした。製造時期や型が違うと色の出方もわずかに違うと言いますよね。また、制作者によってランニングタイムも違いますし、気付かないうちにカラープロファイルが変更されているけれど気づいていないというケースもありました。

長谷川:制作の過程で様々な理由により環境が変化していくのはよくあることだと思います。我々がオフィスにお邪魔してメンテナンスさせていただくという解決策もありますが、その間制作が止まってしまうという難しさもあります。

カラーイメージングエンジニア:長谷川 智弘

都川:かといって、私が一人で全てのモニターをメンテナンスすることも困難で…。これは、モニターを導入するときの「最初の環境」を整えることと、その後も継続して管理する仕組みが必要だと。

IMAGICAさんに相談をしたところ、カラーマネジメントコンサルティングとリモートキャリブレーションサービスをご提案いただき、これなら視環境を継続的に統一することができると思い導入を決めました。

全42台のモニターを刷新。サービス導入により、制作者がクリエイティブに没頭できる環境を実現

都川:IMAGICAさんのサービスを利用すると決めたのと合わせて、メインモニターをEIZOさんのFlexScanから、ColorEdgeに変更することにしました。初回は4台購入してIMAGICAさんに送り、色情報を設定してもらい、現場で試用しはじめました。

あわせて、色域のことや、カラープロファイルについて、EIZOさんに説明いただく機会をいただき、制作者にも色への関心を高めてもらいました。

長谷川:『すずめの戸締まり』に関しては、当社にカラーグレーディングなどのポスプロ作業をお任せいただいていたので、制作者の皆さんが作業する視環境と、弊社の編集室・試写室の視環境の違いを踏まえたモニターの管理設定を提案させていただきました。

都川:4台の試用で感触が良かったので、そのときにいた制作者全員分、25台の設定もお願いしました。「みんな同じ環境で作業できている」とシステム管理が発言できる状況になりました。

長谷川:25台がまとめて送られてきて、まずは置き場所をどうするかというところから考えました(笑) 弊社には高精度な色の計測や分析ができるダークルームがあり、その部屋で、専用の計測器を使い、物理的な色の出方を測りながら一台一台調整していきました。

都川:その後は、制作者の増員とともにモニター台数も42台まで増えましたが、その都度対応していただき、とても助かりました。

森田:こちらとしても、42台一斉に、ではなくてよかったです(笑)
今回、当社のサービスをご利用いただき、導入された率直な感想をお聞きしたいです。

都川:制作者ごとのモニターの利用頻度や利用時間が定期的なレポートで可視化され、メンテナンスが必要な時期がわかるのでとても助かっています。リモートで状況を確認し、制作者が稼働していない時間を見つけていつでも調整できるようになりました。

長谷川:レポートと共に「このモニター、間違ってAdobe RGBが選ばれちゃってますよ」みたいなことをこちらから都川さんに伝えて、対応を検討いただくといったやりとりもできるようになりましたね。

都川:そういったIMAGICAさんのサポートも受けられて、とても負担が減りました。同時に、IMAGICAさんに見てもらえているという安心感も大きいです。クリエイターは特に意識することなく、水面下でトラブルのない安全な制作現場を担保できていたという感覚があり、制作者がクリエイティブに没頭できる環境を実現できたと思います。

森田:私たちは普段はポスプロという制作工程を担っており、テレビだったり映画だったり、作品を見る環境に応じて適切な映像に仕上げるために、どんなモニター環境で制作するのがいいのかを考えて管理している立場です。

最初に都川さんから課題や要望を聞いたとき、私もまさに同じような制作現場の課題と向き合っているので、他人事には思えませんでした。「技術」と「システム」の力の両面でできることを企画し、良い仕組みをご提供できたと感じています。

システムサポート:森田 泰考

長谷川:『すずめの戸締まり』の制作が終盤に差し掛かったとき、新海監督がIMAGICAの試写室に足を運んで作業をするということがありました。そのときに、「自分でモニターを持参する」というお話があり、一体どのモニターを持ってくるのか注目していましたが、新海監督が取り出したのは今回導入したColorEdge…。あの瞬間は嬉しかったですし、ホッとしました。

新海誠監督公式Twitter(@shinkaimakoto)より

都川:今回の取り組みで「高いモニターを使えば安心」ということはないのだと、改めて気付かされました。IMAGICAさんのカラーマネジメントコンサルティングとリモートキャリブレーションサービスは、ただモニターの設定を揃えるものではなく、モニターから投影される光の出方とその感じ方を担保するものと感じます。以前にも増して、制作者と新海監督が同じ光を目指せるようになったと言えるかも知れません。

また、リモートで柔軟にコントロールできるところも、この仕組みの素晴らしいところです。自宅などのリモート環境で制作するクリエイターも増えていますので、これからさらにニーズが高まっていくのではないでしょうか。

©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

映画『すずめの戸締まり』

出演: 原菜乃華/松村北斗(SixTONES)/深津絵里/染谷将太/伊藤沙莉/花瀬琴音/花澤香菜/神木隆之介/松本白鸚

原作・脚本・監督:新海誠

キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠

音楽:RADWIMPS 陣内一真
製作:「すずめの戸締まり」製作委員会
制作プロデュース:STORY inc.
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝

公式サイト
https://suzume-tojimari-movie.jp/

【関連記事】
EIZO株式会社様
~株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム 様 導入事例~
「映画『すずめの戸締まり』の制作においてColorEdgeを活用」
https://www.eizo.co.jp/solutions/solution/creative/cwfilms-suzume/