テレビ東京ドラマ24『きのう何食べた?season2』〜見やすくて美味しそうな“ルック”のレシピ〜

テレビドラマシリーズは映画やCM作品に比べると、カラーグレーディングに時間と費用をかけることが少なかったのですが、近年は「色の演出」に力を入れる作品が増えてきた印象があります。

そんな作品の1つに、テレビ東京ドラマ24で放送された『きのう何食べた?season2』があります。

ドラマ『きのう何食べた?』は2019年に放送された<season1>でも大きな話題となり、数々のドラマ賞を受賞しました。スペシャルドラマ枠・劇場版に引き続き<season2>が制作され10月より放送されています。

今回は『きのう何食べた?season2』のカラーグレーディングについて、どのように取り組んだかをご紹介します。

今回は、アラフィフに突入したシロさんとケンジの日常が描かれます。今までと変わらないゆっくりとした日常の中に訪れるちょっとした変化――。生きていれば誰もが経験する環境の変化や身体的・精神的な変化をシロさんとケンジも経験していきます。

そしてもう一つの主役ともいえるのが、2人の食卓を飾る「美味しく安上がりな手料理」。今回も、毎話披露される料理は、味はもちろんのこと、実用的なレシピばかり!ぜひご期待ください。

https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta2/intro/ テレビ東京【ドラマ24】きのう何食べた?season2 より

ルックの方針のすり合わせ〜テスト撮影

ドラマや映画作品の多くはクランクイン前にテスト撮影を行います。
このテスト撮影にてカメラの特性・レンズの癖・フィルターの選択・照明・現場で使用するモニターの確認等様々な項目をテストしていきます。
カラリストが作品に最初に関わるのは、多くの場合このテスト撮影及びテストグレーディングの時になります。

今回はそのテスト撮影前にまず撮影の鍋島氏と打ち合わせを行いました。そこで「season2」ということで「season1」のルックを継承し、大きくは変更しないという方針となりました。
ただし、使用されるカメラがPanasonic VARICAM-LTからSONY FX9へと変更となったため、LUTの作り直しが必要な状況でした。そのため、今回は事前にFX9にて「season1」のルックを再現したLUTを作成し、テスト撮影の現場に持ち込ませていただきました。

これにより、テスト撮影時にLUTを入れた状態でさまざまな被写体の発色・白いカーテンの見え方・暗部でのディティールの残り方など作品のルックを現場でご確認いただくことができました。
また、照明のバランスについても大きな変化が無いことをご確認いただけたので、非常に良いテスト撮影になったと思います。

フィルターの効き方や、カーテンのディティールの残り方をテストで確認

前述の通り、今回は「season2」なので基本となるルックの方向性は決まっていましたが、通常の新作の場合はこのテストグレーディングが作品のルックの方向性を決めていくプロセスとなります。

カラリストは事前に台本から感じとるイメージとカメラマン・監督のイメージをヒアリングして、それをうまく融合させて作品全体のルックを作ります。
ここで作られたルックはLUTに変換され、撮影中の現場モニター・オフラインメディアの作成時に使用されるためとても重要なプロセスとなります。

今回はテスト撮影の現場でルックが確認できていることもあり、その後のテストグレーディングも非常にスムーズに進みました。

目指したルックに求められること

本作は非常に幅広い層に受け入れられています。そのためグレーディングの方向性としてもターゲットを広くイメージし、誰が見ても“見やすく”“綺麗で”、そして“美味しそう”をテーマに色作りを行っています。

上記に記載したようにメインカメラがSONY FX9に変更されたことにより「season1」に比べ全体の雰囲気が少しシャープな印象だったので、映像や質感があまり硬くなりすぎず優しい雰囲気が出るように意識してグレーディングを行っています。

さらに中江監督をはじめ演出のみなさまも“料理”の見え方にはとても力を注いでおり、画の中で引き立つように発色・明るさ等細かく調整を行っています。

特にナイトシーンの室内などの場合は基本的な照明がタングステン光のため、料理にも暖色傾向が強く出てきます。そのままでは、料理や食材の色が引き立ちにくく、全体のトーンに負けてしまうため、補正する必要があります。ただし補正を強く入れすぎてしまうとシーンの流れに合わなくなってしまうので、違和感なく綺麗に見える加減をさぐる調整が必要になります。

室内シーンの流れの中で自然に見えて“美味しそう”に

作品を引き立てる“ノード構成”

本作品はDaVinci Resolveを使用してグレーディングを行いました。
よく質問を受けることがありますのでDaVinci Resolveのノード構成に関して紹介していきたいと思います。
DaVinci Resolveのノード構成はカラリストによって様々です。「正解」はありませんが、「間違い」はありますのでご注意が必要です。

私は基本的にパラレルノードを複数段組む形で構成しています。最初の段階からこの構成をすべてのカットに適用し、足りないノードは後で足していきます。
こうすることで再調整や確認する際に「何を」「どこでやっているか」がわかりやすくなります。さらにパラレルノードを使用することで、キーイングの際のキーをどこから取るかの選択がしやすくなります。

基本的な調整はLogをベースに行います。(左の枠内)
Log(左の枠内)とREC709(右の枠内)での調整では色の変化の仕方が変わります。REC709での調整は最終的な味付けとして行う場合が多いです。

ちなみに「BaseNode」+「Base LUT」のみの状態がテストグレーディング時に作ったLUTと同じ状態になります。

今回ご紹介したノード構成はあくまでも基本的な構成になります。このような構成にしておけば、細かい調整が必要なカットが続いても効率的かつ的確に調整することができます。

実際にはACESを使用する作品やHDR作業時はもう少し複雑な構成となることのほうが多く、作品ごとの制作スケジュールやワークフローに応じて扱いやすい構成に変更して対応していきます。

作品全体を通して大切にしたこと

『きのう何食べた?』シリーズは、現代社会を生き年齢を重ねていく中で発生してくる問題について考えさせられる作品となっていると思います。そして、色々あっても生活の中心には食卓があり、その“あたたかさ”を視聴者に届けることが、カラリストの仕事として大切にしたことです。
OAやTVerでの見逃し配信などをご覧いただいた視聴者の方が、「作中のレシピに挑戦したい」と思っていただけたら成功だと思っています。

文:関口 正人(カラリスト)